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書評 2024.10

おとなのギモン

 職場で働く勤労者たちが抱えがちな典型的なお悩みを手がかりに,“生き方の心構え”を導いていく1 冊。「会社に行きたくない」「仕事の意味が分からない」「人間関係が面倒くさい」「飲み会に行きたくない」「組織で働くのが苦手」「もっと評価されたい」から「人生が苦しい」までトピックは13章・各5つ=計65のQ&Aで構成される。毎日がつらくて仕事に行きたくない状態なら,負の連鎖を絶つためにも意図的に休めと,解は明快だ。飲み会には行かなくてもいいけれども,参加すれば得られるメリットもあると諭す。記述のスタンスは,ただ優しく寄り添うだけではない。「自分なりにがんばっている」では意味がなく,組織の期待役割や生産性(売り上げアップ・コスト削減・時間短縮)への寄与はマスト。金額換算で「給料の10倍」の貢献を求め,「時間がない」は管理能力の欠如を告白しているようなものだと手厳しい指摘も含む。人生の質はコミュニケーションの質だとも述べ,相手を意識して接する「絆徳」の概念を説き起こしている。

●著者:清水康一朗  ●発行:日本経営センター
●発行日:2024年7月30日  ●体裁:四六版/168頁

定年いたしません!

 著者はあのクビキラー氏。65歳で定年退職してみたものの,長く最上位等級の社会保険料を負担してきたのに,年金の手取り額は生活保護水準に過ぎなかったと怒る。アリではなくキリギリスだと自負するご本人は,身の丈(=年金額)に合ったビンボー生活に慣れましょうと諭す多くの定年準備論に対して「決して受け入れられない」と拒み,ゆえに働き続ける覚悟を本書に開陳している。外資系金融機関で人事の仕事を担ってきた経験から「ジョブ型」の雇用・就労事情を日本企業で働く現役サラリーパーソンに向けて解説。定年まで時間のある若い人には,自分の経済的立ち位置を知り,先手を打ち,賢く定年に備える状態を目指そうと誘う。外資系本社には「年齢差別はない」と確認したものの,実際に働く日本の職場には「定年という風習がある」現実を語り,50歳から65歳までに8回,65歳以後に3回の転職(転社)を重ねてきた“闘いぶり”を明かす。日本の年金制度への怨嗟にも似た等身大の心情を吐露する記述は面白くかつショッキングでもある。

●著者:梅森浩一  ●発行:光文社
●発行日:2024年8月30日  ●体裁:新書版/265頁

離職防止の教科書

 人の心の動きが行動を促し,その結果が数字に現れるという因果関係に着目する経営心理学の知見から「経営心理士」の資格を創設した著者が,離職防止の真髄を語る。前半では4つの心理(生存欲求・関係欲求・成長欲求・公欲)に分けて,部下のニーズを探り,それを満たしていくアプローチを紹介している。例えば,「関係欲求」では,たった1回感情的に叱責してしまった結果,優秀な部下に退職され,その人がキーマンだったゆえに会社が傾いてしまった失敗例を挙げる。「成長欲求」では現在の処遇が順調でも,将来に絶望して退職に至るケースは多々あると指摘し,なぜその仕事を担当してもらいたいのかをビジョンを示しながら伝える工夫が必要だと解説している。後半では9つの人材タイプ(3つの年代×能力・意欲3段階のマトリクス)別に働きかけのコツを整理。若手にはリアリティショックへの配慮を,中堅社員には適性の見直しによる再生を提案する。上司・経営者には自らを律して向き合う姿を求め,上に立つ人ほど厳しい覚悟が問われそう。

●著者:藤田耕司  ●発行:東洋経済新報社
●発行日:2024年9月3日  ●体裁:四六版/281頁

Z世代の社員マネジメント

 感覚的な世代論とは一線を画し,データに基づく根拠の確かな特徴を押さえるべきだと著者は語る。本書ではそれに先立ち組織人格と個人人格に分けて“働く人間の真実”を俯瞰。「がんばります」と明るく前向きな態度だった部下が,突然「辞めます」と言ってくる現象に矛盾はないと解説する。続けて,若手社員のスキル・モチべーション診断データ(約20年・のべ45万人)から,2013年(ゆとり世代)と2023年(Z世代)を比較し,顕著な差異を抽出している。ビジネススキル(組織人格)の側面では,「挑戦より調整,対峙より対話が得意」とZ世代を総括。またモチベーションタイプ(個人人格)では,「理想より現実,競争より協調,賞賛より承認」を志向する傾向を指摘している。企業はこれらの事情を把握したうえで,組織人格を磨く方法を探る必要があるとして,スタートアップ期・ベースメイク期・ギアチェンジ期という3つのステージ別の働きかけを展開していく。分析を超え,向き合い方,育て方までマネジメント哲学に昇華させた密度の濃い1冊だ。

●著者:小栗隆志  ●発行:日経BP /日本経済新聞出版
●発行日:2024年9月11日  ●体裁:四六版/255頁

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【評】 久島豊樹 Kushima Toyoki





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