書評 2024.11
等身大の定年後
複数のビジネスパーソン個々人のキャリアを長期にわたって定期的に対面取材している著者が,定年を迎えたシニアたちの実態を生々しく描き出す。定年前後のキャリアパターンを5つ(@継続雇用,A転職,Bフリーランス,CNPO社会貢献,D女性)に分類し,計15人のケースを取り上げている。一人ひとりの現役時代の言動と今の状態とを比較しながら,転機での迷いと決断,その背景にある出来事や心情をドキュメントタッチで考察する力作だ。なかでも,必ずしも成功事例ではないストーリーには興味が尽きない。若い頃は「専門職を極める」と語っていたのに,リストラからの生き残り,出世の誘惑等の諸事情で管理職コースに進み,結果的には役職定年を迎えて不活性状態に追い込まれてしまったなどは典型例だろう。自分に自信があり,行動力のある人でも事前の計画とは違う道を歩んだり,出会い頭のタイミングで意外なキャリアチェンジを選択したりしている。怒り,悔恨,沈黙ほか情動的な機微に触れながら,シニアのキャリアを考えさせられる。
●著者:奥田祥子 ●発行:光文社
●発行日:2024年7月30日 ●体裁:新書版/267頁
マネジメントのリスキリング
プレイングマネジャーの負荷が重く「管理職になりたくない」と漏らす社員が増える今,マネジメントスキルのエッセンスを凝縮したタイムリーなガイドが登場した。マネジメントスキルは学習可能であり,習慣化できれば改善効果は劇的だと著者は語る。マネジャーが担うべきサイクルを,@目標開発,A職務分担,B達成支援,C評価検証の4つに集約し,さらに各8つの行動を組み合わせた「ジョブ・アサインメント32の法則」が本書のコアコンテンツになる。これら32要素の組み合わせから,目標達成・キャリア支援・エンパワーメント・効率・人的資本・テレワーク・ダイバーシティ・経験学習を機能させ“マネジメントのプロ”へ成長する道筋が順序立てて解説されている。論理的な内容ながら,職場の身近な題材を手がかりに親身に語りかけてくれるスタンスで一貫。各章ごとに「1分で読めるサマリー」も整理されているので要点把握も容易だ。不安を抱えがちなマネジャーたちには自信と希望をもたらしてくれるバイブルになるかもしれない。
●著者:大久保幸夫 ●発行経団連出版
●発行日:2024年9月30日 ●体裁:四六版/253頁
「エンゲージメント調査」のつくり方・活かし方
エンゲージメント調査と組織改革を自社で内製化する“やり方・進め方”の解説を理論編・実施編・活用編の3部で構成した1冊。基礎となる概論に加え,著者自身がコンサルティングの現場で蓄積してきた独自の知見がふんだんに盛り込まれ,読者にとってはお役立ち感の高い仕上がりだ(アンケートに回答して帳票類がダウンロードできる特典もうれしい)。理論編ではまず人的資本経営を説き,自社での実践度チェックが試せる。実施編では調査事務局の組成に始まり,モデルスケジュール,調査名称の決め方といったレベルから目配りが行き届いている。専門的なところでは,設問コンセプトの整理,設問文の整形,結果のクロス集計,設問間の相関関係,組織文化との因果関係の把握等をガイド。さらに結果報告のまとめ方にもノウハウがあるとして,形式へのこだわりより的確な内容を重視したコメントの付け方のコツを開示している。調査結果を受け入れる役員たちのマインド醸成も課題に挙げるなど,事務方の目線で貫かれたコンテンツが頼もしい。
●著者:冨山陽平 ●発行:同文舘出版
●発行日:2024年10月3日 ●体裁:四六版/303頁
ホワイトカラー消滅
明治維新の際,人口の10%を占めていた士族が消滅し,新しい産業の担い手に置き換わったように,今はホワイトカラーが歴史的大転換に直面していると著者はマクロを捉える。我が国が「失われた30年」から脱却するには,分母の省人化と分子の単価引き上げしかなく,カギはAI活用とDXによる経営の高度化だと論じ,その過程で存在意義を失うのが「漫然とホワイトカラー」「なんちゃって管理職」たちだとはじき出す。ただし,それは失業者の増加を意味せず,エッセンシャルワーカーとして質・量ともに社会の主役になっていくと予測。働き方は,365日がんばるスタイルではなく,AIやDXの活用によって,高付加価値の成立する時間帯だけ集中するような経営の高度化が伴っての話だと先行事例を挙げて説明する。同時に,勤労者個人には,アンラーニングとリスキリングが必須とされるが,その本質はリベラルアーツによる土台の構築だと説く。今は低生産性の状態ゆえ,伸びしろは大きいと見て,悲観論ではない「日本再生への20の提言」を力説している。
●著者:冨山和彦 ●発行:NHK出版
●発行日:2024年10月10日 ●体裁:新書版/303頁
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