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社員不祥事を防ぐシンプルな方法

ベストブレイン梶@ 代表取締役 堀 尚弘

 社員の不祥事に関して実名報道が増加傾向にある。加えて,社員の不祥事が起きれば,マスコミほかステークホルダーから組織マネジメントに対する責任が追及される。また,第一線で稼働する社員を懐柔し不正を働かせるといった暴力団等反社会的勢力が企業をむしばむ手口について,企業側の認識が乏しい実態もある。不祥事の防止は,重要な経営課題の1つといえる。
 業務内外を問わず社員不祥事には,実に様々な不正と非行があり,その手口も枚挙にいとまがない。その多くは,監査制度の盲点,またはプライベートなどマネジメントの及ばない弱点を突いて発生する。そのため,会社側には“社員不祥事対策は難しい”といった思い込みを生み,取り組みが躊躇されがちである。しかし,様々な社員不祥事に共通する根本的原因と兆候に注目し,対策をとることで,リスクの効率的な解消が可能である。

■非行・不正の兆候に気付くには

 社員不祥事の根本的原因は,管理職クラスが抱える2つの意識に潜んでいる。1つは,「まさか彼がこんな事件を起こすとは……」といった“不祥事に関する想定外意識”。2つ目は,「もっと早く気付いていればよかった……」といったコメントの根底にある“兆候に関する無関心”だ。不祥事を起こした本人には,勤怠の変化など何らかの兆候が必ずある。兆候に気付かない,あるいはそれを察しても,「まさか不祥事はないだろう」と楽観視した対応を続けていると思わぬ大事を招くことになる。
 ストレス解消のためにパチンコ・競馬や酒食に溺れ,遊興費欲しさに売上金を着服する。あるいは,ストレスが高じて痴漢行為に走るなど,社員不祥事の根底には必ずストレスがある。ストレスが溜まれば(あるいはそれを発散するギャンブル等にはまれば),勤務態度ほかに変化が生じる。この種の変化こそが“兆候”であり,それらは,いくつかの具体例を知ってさえいれば実に分かりやすい。例えば,早朝から出社し始業時間前から業務を開始するようになったケース。業種業態にもよるが,過去の例では,この兆候が見られた銀行員が,暴力団と結託し,約10億円の被害を計上した詐欺事件,あるいは被害額数百億円の横領事件を起こしたケースがある。

■管理職のコミュニケーションが鍵

 「兆候」に注目した不祥事防止のマネジメントとして,管理職クラスに実践していただきたい2つのコミュニケーションを以下に紹介する。
 1つは,“部下との信頼関係を築くためのコミュニケーション”だ。一例だが,「スーツを新調したのか?」といった気付きのトークがあれば,部下の側にも「いつも見ていてくれている」という安心・信頼の感情が芽生える。これを実践すれば,部下にはストレスや悩みの種を上司に相談しようとする意欲が生まれる。この働きかけは苦手意識のある相手に対しても有効だ。気付きのトークを実践した管理職からは「こんなことまで言わなければならないのか,といった愚痴が減った」との感想を得ている。
 2つ目は,“兆候を早期に把握するためのコミュニケーション”だ。「何かあったらとりあえず報告」「悪い内容ほど早く報告」「相談を迷ったときこそすぐ報告」という“リスク報告3つのルール”を部下に実践させることである。これは,部下との信頼関係を築くためのコミュニケーションを礎にしている。リスク報告の実践は,部下を疑いの目で見ていたのでは難しく,信頼関係が前提になる。
 さらに,以上2つのコミュニケーションは,モチベーションアップ,風通しの良い職場作りという相乗効果を生むことにも注目したい。

(月刊 人事マネジメント 2012年3月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

  
ビジネスコンサルタント。警視庁、上場企業等での勤務を経て2003年にベストブレイン鰍創業。上場企業から学校法人、個人事業主まで規模・業種を問わず、社員不祥事の予防、暴力団排除を含むコンプライアンスの実践、震災対策等のリスク管理に関するコンサルティングを提供している。著書に『成功する会社が必ずやっているリスク管理』(幻冬舎ルネッサンス新書)がある。

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