グローバル化と多様性の考え方
潟Vグマクシス プリンシパル / 早稲田大学大学院 非常勤講師 奥野 薫
■人財定義の曖昧さがもたらす人財不足
多くの日本企業にとってグローバル化が急務であることは論を待たないが,その際の課題として「人財不足」を挙げる例は多い。海外で積極的にM&Aを展開している企業でも,買収後は現地企業に対するガバナンスが弱く,特に人財の状況に関しては,質・量ともにブラックボックスという状態も散見される。ビジネスをグローバルで展開するには,当然それを担う「グローバル人財」が必要とされるが,そもそも,人財定義が不明確な場合が多いと思われる。必要な人財の定義が曖昧であれば,それを探し出すことはできず,人財の不足感は解消されない。
■“属性の多様性”から“能力の多様性”へ
「グローバル人財」という言葉の生む共通イメージは,海外経験があり,語学が堪能,環境適応力が高いなどが一般的であろう。これらは,もちろんグローバルビジネスを遂行する上での必要条件ではあるが,十分条件ではない。しかし,実際に企業が海外派遣を行う際には,こうした表面的な基準で選抜している場合が多いのも事実だ。また,日本企業は,「グローバル人財」を“日本人男性総合職”に代表される特定の属性で捉えているケースも多い。
グローバルビジネスを展開する際に“ダイバーシティマネジメント”は重要だが,多様性の捉え方は,国籍,人種,性別などだけではない。ビジネスの現場で本質的に重要なのは,そもそもの(グローバルで必要とされる)ビジネス知識やスキルをはじめとした具体的な能力であろう。日本企業が「ダイバーシティ」というとき,女性や外国人といった“属性”で捉えがちだが,グローバルビジネスでは,“属性の多様性”よりも,個々人にフォーカスした“能力の多様性”を重視すべきだと考える。各個人がどのような役割で具体的に何ができるのか? これを明確にしてこそ,ダイバーシティマネジメント本来の目的「違いを活かした競争優位」が実現できる。
■多様な“能力要素”の考え方
では,どのようにグローバルで必要な能力要素(=人財像)を定義すべきか? 2つのポイントと3つの能力要素で考えてみたい。
2つのポイントとは,「自社の“価値基準”を盛り込むこと」と「具体的に何がどのレベルでできるのかを明確にすること」である。国籍や人種等の“属性”を超えた人財管理を行うには,それらに優先する企業の「価値基準」を明確に示す必要がある。単一文化圏における国内ビジネスに比して,この要素が格段に重要になることは想像に難くない。また,日本企業における“能力の捉え方”は,「職能」に代表されるように曖昧になりがちだが,職務主義的人財管理が一般的な海外では,能力定義も“具体的に何ができるのか”を基準とした職務定義的な考え方が合理的で適合しやすく,能力の多様性も担保しやすい。また,属性等に惑わされることなく,最適な人財配置を機動的に実行できる。
次に3つの能力要素とは,「スキル」「経験」「能力」である。「スキル」とは,語学や資格等も含めたテクニカルなスキル,「経験」は業務上の具体的な経験値を指し,「能力」は価値基準を反映したコア能力(コンピテンシー)と,「具体的に何ができるか」というプロとしての力量を示すマーケット能力で構成される。「スキル」と「経験」は,「能力」を裏付ける“査証的”位置づけとして補完構造になっており,この3 つを組み合わせることで,より多様な能力が定義できる。
以上のような考え方で,ビジネスの現場に即した多様で具体的な能力を定義することが,人財のグローバル化においては,重要だと思われる。
(月刊 人事マネジメント 2012年11月号 HR Short Message より)
HRM Magazine.
|