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市場原理型人事の条件

(株)トランストラクチャ 代表取締役 シニアパートナー 森 大哉

■人事に市場原理を取り入れる時代

 人事管理におけるこれまでの主流は,いわば「キャリア丸抱え型人事管理」であった。定年までの雇用と年功的処遇向上を保証する代わりに,どんな仕事を任せるかは完全に会社の裁量というやり方だ。しかし,業容拡大が困難な今の時代,このような人事管理方法にこだわっていたのでは,総人件費を適正に保つことは覚束ない。ポストが増えない状況で社員の平均年齢は上がり(等級構成が高いほうに偏り),総人件費が上がり放題になってしまうからだ。かといって,昇格を無理やりストップすれば,モチベーションダウンが起こって職場には閉塞感が漂い始める。あとはロイヤリティーの強い一握りの社員に頼るしかなくなってしまう。
 「丸抱え型」は,もう立ち行かないのだ。“常に必要な職種の人が必要数雇われて元気に働いている”という理想の組織を実現しようとすれば,必要なときには社外から優秀な人材が集まり,余る場合は,適宜本人の意思に基づいて去っていくという仕組みに行き着く。もちろん,給与水準は雇う側と雇われる側の双方が納得するものでなければならない。これがまさに需要と供給の関係で個別の雇用が定まる「市場原理」だ。人事の領域にも市場原理を一定程度取り入れる時代が到来したということである。

■等級・評価・給与制度の整備は不可欠

 人事管理に市場原理を導入するには,等級・評価・給与のそれぞれの制度をこれに沿って整備しなければならない。
 まず,等級は,職務と責任に基づいて丁寧に定義される必要がある。そうしなければ,どのような仕事のためにどのような能力を持つ人材を調達し,配置すればよいかが曖昧になり,またもや年功管理の“癖”が出てくるからである。
 等級が定まれば,市場を睨みつつ等級ごとの給与水準を決める。同規模の会社の同じような職階の給与水準を調べ,需要と供給のマッチングポイントを意識して給与レベルを決める。ここでは“競争力のある年収”をどう設定するかがポイントである。つまり,会社にとって真に優秀な社員には市場水準より高い給与を,そうでない社員には市場水準より低い給与を支払う仕組みを作る。そうすれば,会社が求める優秀者は自然に会社に残り,需要に合わない者は自然に去る。このとき最も重要なのは,会社が求める人材の要件に照らして正確に社員の能力や成果を測定できる評価制度の設計・運用である。
 要するに「市場原理に適合させるために,成果主義の人事制度を作れ」といっているのか? 実はその通りである。ただし,成果主義は社員の尻を叩くツールに矮小化せず,組織の適正な等級構成を常に維持し,適正な総人件費を維持するために不可欠なシステムだとご理解いただきたい。

■人材開発も市場原理を支える重要な要素に

 市場原理型人事では,評価・処遇だけでなく採用を含む人材開発機能も重要な要素になる。市場との接点にあって,会社が求める優秀者を相応の処遇条件でうまく集めて来なければならない。労働市場は発達してきたので,大変ではあるが可能な仕事だ。また,教育研修については,会社特有の戦力を向上させるような実践的な教育に資源を傾斜配分させたい。社員の自発的な意思で受講するような自己啓発型の研修もより拡大させていくべきだろう。市場原理の下では,能力開発も自己責任の部分が大きくなるからだ。また,労働市場との接点という意味では,自分の生み出す成果と給与水準とが需要と供給のマッチングポイントにあるかどうかを検証させるような研修も,今後その重要性を増してくるだろう。

(月刊 人事マネジメント 2014年5月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

  
早稲田大学法学部卒業。米国ニューヨーク大学経営大学院修了。三菱重工業(株)に入社し、労務管理・海外調達関連業務に従事。その後、トーマツコンサルティング(株)に入社。戦略・組織コンサルティング業務を経て、同社パートナー就任。続いて、朝日アーサーアンダーセン(株)にて、人事組織コンサルティング部門の部門長として数多くの組織変革を支援。同社パートナーを経て、現職。

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