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経営統合で考慮すべき人事リスクとは

クレイア・コンサルティング(株) ディレクター 針生俊成

■経営統合・合併効果を損ねる人事リスク

 M&Aやグループ組織再編が盛んな現在,経営統合や合併に際しての「人事の統合」は,どのように考えるべきだろうか。経営統合や合併の目的はシナジー効果創出や効率化追求である場合が多く,「人材」という重要な経営資源についても統合管理していくことが自然な考え方だ。しかし,“合併したら人事制度も統合しなければならない”という決まりはない。現実に合併後10年以上も2つの人事制度を併存させている例もある。このようなことが珍しくないのは,人事を統合するリスクが大きいと思われているからだ。
 では,その「人事統合のリスク」は,どこまで正確に把握されているだろうか。給与水準の違い等,目立つ部分だけに着目して人事統合が難しいと考えていたり,「統合しないリスク」が把握されていないケースでは,人事統合の遅れが合併効果を大きく損ねるということにもなりかねない。経営統合や合併に際してまず人事がやるべきことは,「統合するリスク」と「統合しないリスク」を網羅的に把握し,その影響を正しく評価することだ。

■4つの人事リスク

 人事統合に関するリスクは,以下の4つの観点で整理してみると分かりやすい。
@法的リスク:法的要件を満たせなくなる場合や,従業員からの訴訟に関するリスクである。例えば,一部の企業年金制度を導入している場合には合併後1年以内に統合しなければならない(統合しないリスク)。一方で,統合の仕方によっては従業員の既得権や期待権を侵害し不利益変更で訴えられる可能性がある(統合するリスク)。
A人件費リスク:人件費上昇や人件費効率低下に関するリスクである。例えば,不利益変更を避けようとすると,条件が高いほうに処遇を合わせざるをえず,人件費が上昇する(統合するリスク)。一方で,人事制度と人員構成が人件費上昇を招きやすい構造になっている場合,格好の改革機会を逃すことがリスクとなる(統合しないリスク)。
B運用リスク:職場の混乱を招くリスクである。例えば,異なる評価制度を併存させると,上司は部下に応じて2種類の評価制度を使い分ける必要がある(統合しないリスク)。一方で,評価能力に差がある2 社の評価制度を安易に統一した場合,評価調整に膨大な労力がかかる(統合するリスク)。
Cモチベーションリスク:従業員が不公平感や被害者意識を抱き,人材流出につながるリスクである。例えば,給与水準が大きく異なる場合には不公平感を喚起しやすい(統合しないリスク)。反対に,一方の組織の生産性が低く給与水準も低い場合には,安易に給与水準を高いほうに合わせると,もう一方の組織の従業員の不公平感や被害者意識(自分たちの利益が他方の組織の給与アップに使われてしまう)を招きやすい(統合するリスク)。

■リスクの把握が人事統合成功の礎に

 人事の「統合するリスク」と「統合しないリスク」を網羅的に把握し,その影響を正しく評価できたら,次に「統合シナリオ」と「コミュニケーションプラン」の検討を行う。ここでは詳述しないが,シナリオの構築では,あるべき姿(ゴール)と人事統合に至るまでの過程(統合のシナリオ)を慎重に検討する必要がある。また,統合では立場や過去の経緯が様々な従業員を1 つに束ねていかなければならない。従業員間での利害衝突や,従業員感情に関するリスクを踏まえて,きめ細やかなコミュニケーションプランを検討・実施していくことが,人事統合の成功には必須となる。

(月刊 人事マネジメント 2014年7月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

  
筑波大学第二学群人間学類卒業。トーマツコンサルティング,アーサーアンダーセンを経てクレイア・コンサルティングの立ち上げに参画。幅広い業種における統合的人事制度改革,コンピテンシー設計,人材アセスメント,人材育成,意識改革,ES(従業員満足度)向上等,多数の人事コンサルティングプロジェクトに従事。合併や分社等の組織再編に伴う人事制度改革,高度専門職の人事制度設計やコンピテンシー設計,ブランドマネジメントと連動した人材マネジメントのコンサルティング等の実績も豊富。

>> クレイア・コンサルティング株式会社
 http://www.creia.jp