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「ストレスチェック義務化」を活かせ

(株)アドバンテッジリスクマネジメント 取締役常務執行役員 神谷 学

 2014年6月に労働安全衛生法が改正され,「ストレスチェックの義務化」が注目されている。もともと自殺対策をきっかけに検討が始まったとはいえ,従業員のメンタルヘルスは生産性や従業員満足度の観点から経営戦略にも密接に関連する。これまでは一部の企業のみが対応してきたが,今後は法制化により原則50名以上の事業場で義務化される。

■ストレスチェックの流れ

 フローは以下の通り。まず,従業員はストレスチェックを受ける。ストレスチェックというのは,「焦燥感がある」「不安だ」「眠れない」といったストレス症状を測る設問に加え,ストレスの原因となる職場環境や人間関係に関する設問も組み込まれる予定だ(詳細は厚生労働省で検討中)。その結果は本人にフィードバックされ,高ストレス状態であり医師の面談を希望したいと人事に申し出た従業員に対しては,会社は医師との面談機会を提供しなければならない,というものである。

■ストレス状態の自覚からセルフケアへ

 ストレスは,蓄積していても自分では気づきにくいという特徴がある。上司や同僚が声をかけてくれるなどして事前に気づけばいいが,そうしたことができる職場ばかりではない。気づかないうちに無理を重ねて休職したり,病気を発症したりすることもある。そこで,定期的にチェックを受けることで自分のストレス度合いを客観的に見つめ,ストレスが高いと自覚できれば,セルフケアにつなげられる。休みを取ってリフレッシュを図ったり,家族に相談したり,仲間と遊びに行くなど,いろいろなセルフケアの手段が考えられる。
 個人では解決できない職場に根差した問題でストレスが高い状態にある場合には,産業医への相談も有用である。産業医はストレス状態やその原因を確認し,会社に対して必要な助言を行う。会社は,助言に基づき,仕事量の調整や残業時間の抑制などの措置をとることになる。
 ただし,現実には人事に知られてまで産業医に相談してみようと思う従業員は少ないかもしれない。また,必ずしもストレス要因のすべてが職場に起因するわけでもない。筆者の属する会社の調べでも,個人のストレス要因で一番多いのはプライベートに関するもの,との結果が出ている。従って,会社に知られず匿名で気軽に相談できる社外の相談窓口の存在は重要である。こうした窓口を設置する企業は増えてきており,適切な運用を図りたい。

■組織分析を実施し,改善策を探る手がかりに

 厚生労働省は,ストレスチェック制度を高ストレス者の発見機会としてだけ位置づけているわけではない。高ストレス状態を生み出すような職場環境の改善により,不調者の発生を未然に防ぐことが極めて重要だとしている。そのためには,ストレスチェックを集計して組織分析を行うことが欠かせない。ストレス反応には仕事の量や質,上司や同僚との関係をはじめ,様々なストレス要因が影響している。これを職場別・職種別・年齢別などのセグメンテーションで分析し,要因を特定し,解決策を考えるのである。EAP(従業員支援プログラム)と呼ばれるメンタルヘルスケアサービスを手がける会社には,こうした組織分析および組織改善のためのソリューションを提供する企業があるので,そうした専門家に相談するのも有効な選択肢の1つだ。
 ストレスチェック義務化を,“やらされるもの”として形式的に流すのではなく,個人と組織双方にとって意味のある施策と捉えて機能させることができれば,働きやすく生産性の高い組織が実現する。ぜひ前向きに取り組みたい。

(月刊 人事マネジメント 2014年8月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

  
1974年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、文部省(現文部科学省)入省。国際関係の業務に従事。2001年、(株)アドバンテッジリスクマネジメント入社。リカバリ・キャリアサポート事業部長、経営企画室長、執行役員兼経営企画部長、取締役執行役員兼経営企画部長を経て、2014年4月より現職。商品企画、メンタルヘルス事業、障がい者雇用、海外事業から、経営企画まで幅広く事業の柱を作ってきた。

>> 株式会社アドバンテッジリスクマネジメント
 http://www.armg.jp/