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「適切な格差」の落としどころを探る

ユニティ・サポート 代表 小笠原隆夫

■「適切な格差」の定義は難しい

 最近「格差」の問題がいろいろな場面で取り上げられます。複数の対象の間には,どんなことでも差が生じますから,何事にも「格差」はつきものということでしょうが,「格差」はあって当たり前とはいいつつも,その行き過ぎは好ましくないという捉え方が,多くの人の共通認識だと思います。しかし,行き過ぎかどうかの線引きがまた難しい問題です。「格差」の許容範囲は人によって違いがあり,明確にできるものではないからです。
 企業の人事制度でも全く同じことがいえます。例えば“評価による処遇格差はどの程度が適切か”というような議論です。総論では,「能力が高い者に厚く処遇する」「結果を出した者に報いる制度にする」という方向性で一致するものの,各論では意見が分かれます。どの会社でも,「差をつける派」と「慎重派」に分かれますが,経営層は「差をつける派」の側に立つことが多いので,どうしても「いかに差をつけるか」という議論になります。

■人事制度本来の目的とは

 ここで改めて人事制度の本来の目的を考えると,それは「組織全体の業績を上げるために人的資源を活性化する」ということになります。企業は人の集合体であり,様々な属性の人々が混在しています。年齢や性別からはじまり,性格や志向,持ち味など,その違いは千差万別です。そしてそのすべての人たちが企業にとっての戦力です。もしも俗に言われる“悪平等の状態”で,それが社員たちのやる気を阻害しているのだとすれば大きな問題ですが,一方で,ただ単に給与額や昇格スピードなどで差がつけば解消する問題なのかといえば,必ずしもそうではありません。ともすれば「差がつく」という形で競争させることが,やる気につながると考えがちですが,競争が得意な人も苦手な人も,他人との差に敏感な人もそうでない人もいます。競争の苦手な人が多い職場であるなら,あえて差をつけずに落ち着いて協力し合う環境を作ったほうが,組織としては活性化するかもしれません。「差をつけること」は,あくまで手段の1つです。

■自社にとっての「適切な格差」の見つけ方

 人事制度での「適切な格差」を決めるうえで重要な要素は,社員の「納得性」です。どんな精緻な仕組みであっても,結果の捉え方は人それぞれ違い,差がつく度合いが大きくなるほど,その結果に「納得性」がないと,社員の意欲は下がります。この「納得性」には評価結果,運用プロセスなど多くの要素が関わります。例えば評価では,何が成果なのかという「成果の定義」が必要です。“成果”といえば売上や利益を求めがちですが,部下育成や顧客開拓といった数字に表れづらい事柄も,広い意味では“成果”です。また,「結果の評価」は,数字を見れば誰でもある程度はできますが,「プロセスの評価」は,現場の業務や周辺事情をよく知らなければできません。誰が評価し,その過程でどんな説明をしているかといったことも,「納得性」を高めるうえで重要です。評価者の態度のせいで,感情的に納得できないという人もいます。さらに,評価結果である給与額も,世間一般の給与水準を維持して初めて格差も納得されます。いくら評価が良くないからといっても,非常識な低賃金になってしまうようでは,社員たちは受け入れないでしょう。
 最終的にはどの会社も,自社の業態,企業風土などを見極めながら,「格差」の落としどころを決めています。人事制度本来の目的を念頭に置き,「適切な格差」の共通認識を得る取り組みが重要になってくるでしょう。

(月刊 人事マネジメント 2015年4月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
中堅SI企業の人事部門責任者として、人事制度構築と運用、採用活動をはじめとした人事関連業務全般、M&Aでの組織統合実務などの経験を経て、2007年2月に「ユニティ・サポート」を設立。人事コンサルタントとして、人事制度策定、採用支援、人材開発施策、人事戦略作りやCHO(最高人事責任者)支援など、人事や組織の課題解決・改善に向けたコンサルティングを展開。豊富な実務経験を元に、パートナーとして顧客と協働することを信条とする。

>> ユニティ・サポート
 http://www.unity-support.com/