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ベテラン社員活躍の鍵

(株)ジェイフィール コンサルタント 片岡裕司

■ベテラン社員問題とは何か?

 「ベテラン社員活用」についてご相談を受ける機会が増えてきました。日本社会の成熟化,バブル入社組の高年齢化,また雇用延長などの社会的背景もあり,多くの企業で人口構成が逆ピラミッド型になりつつあります。一方,企業を取り巻く競争環境は日増しに激しくなっており,ベテラン社員は,「新しいことにチャレンジしない」「学習しない」「扱いにくい」など,まるで組織の足かせのようなレッテルを貼られています。また,この問題に対しては異口同音に「難しい課題だ」という声もよく聞こえてきます。
 しかしこの問題をベテラン社員個人の問題,キャリア自立意識の不足と言い切ってしまっていいのでしょうか。多くのベテラン社員が活躍できていないということは,組織の側にも問題があるのではないでしょうか。「誰が悪いか」ではなく「何が問題か」を問うべきであり,機能と能力という観点で考えていくことがこの問題解決の糸口となります。

■ベテラン社員問題の本質と活躍に向けた鍵

 ベテラン社員問題の本質は,不活性な社員にどう対処するかではなく,時代に合わせた「キャリア観」を醸成していく風土の問題と,本人の「働く意義」に問いかけていくマネジメント力の問題なのです。
 会社人生の前半戦で高めた専門性で後半戦を生き抜くという時代は終わりました。「もういい歳なんだから」と,新たなチャレンジを“しない”もしくは“させない”と,やがて大きな問題を引き起こします。また企業とマネジャーは「年上の上司は扱いにくい」と他責に逃げるのではなく,「内発的動機」を高める能力が自社,自分に不足していると自覚すべきではないでしょうか。組織としてキャリア観とマネジメントを変革していく。こういう立ち位置で捉えるとこの問題は大きく前進していきます。ある企業では,ベテラン社員の活躍を全社の能力向上という問題意識を持って真剣に取り組みだしたことにより,7割近いベテラン社員に行動変容が見られました。また,副次的効果として30代社員のモチベーションが高まるという現象も見られました。若手社員にとって,ベテラン社員の姿は将来の自分の姿でもあります。ここに企業が真剣に取り組むことで,様々な意味で希望を持ち始めるということは考えてみれば当たり前だといえます。

■新たな組織能力の開発の機会にする

 ベテラン社員の活躍促進という課題は,我々に新たな組織能力の開発を迫るとともに,絶好の組織成長の機会といえます。この問題に真剣に向き合っていくことで,今後ますます重要となる「人を活かしきる」力を組織として身につけることができます。内発的な動機をしっかり持たせられる仕組みとマネジメント力。また,年齢に関係なく,すべての社員が自分を磨き,高め続けることが当たり前となったキャリア力。そして,自分の将来に期待をもって働き続けるビジョン力です。ベテラン社員の問題を,「中高年たちの問題」や「一時的な人事課題」と捉えず,働く人々を惹きつけ,魅力と活力にあふれた企業へ進化させていく機会と捉えてみましょう。
 最後に,ある人事担当の思い出深い一言でこのメッセージを締めたいと思います。金融機関で長く働かれたこの方は,人事としてベテラン社員活性化の担当となり,「自分の仕事は不良債権処理か」と感じたそうです。しかしこの問題に真剣に向き合い,気づいたことは,「とんでもない“財産”がそこにある」というものでした。
 皆さんも「難しい課題」と恐れず,隠れた財産を見つけ出しにいってください。

(月刊 人事マネジメント 2015年7月号 HR Short Message より)

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アサヒビール(株)、同社関連会社でのコンサルティング部門で活躍後独立。ジェイフィールに設立から参画し、組織開発プロジェクトやミドルマネジャー向けの研修講師を中心に数多くのプロジェクトを担当。特に、人づくりを通じた組織風土改革およびその実現に向けた経営機構改革に関するコンサルティングを行っている。また、リフレクションラウンドテーブルのカリキュラム開発や診断ツールの開発なども担当する。多摩大学大学院博士課程前期修了、同大学・知識リーダーシップ総合研究客員主任研究員を兼務。

>> 株式会社ジェイフィール
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