*

HRM Magazine

人事担当者のためのウェブマガジン | Human Resource Management Magazine
HOME

社員が自律的に学び,企業が成長する仕組みを

トーマツ イノベーション(株) 人材戦略コンサルティング第一本部 シニアマネジャー 田中敏志

■「優秀な人材がいない,定着しない」

 企業の成長において,社員に早く・長く活躍してもらうことは大きなテーマの1つだ。人的リソースに限りがある企業ほど社員の成長と定着に悩んでいる。その対応策として社員のモチベーション向上は不可欠であり,カギを握るのが人材育成である。
 人材育成を成功させるには,会社として社員がしっかり成長できる仕組みを作り,社員が“自分は会社から期待されている”と実感できるような運用が大切だ。しかし経営者や教育担当者にとって,効果的な人材育成を実践しようと思っても,時間,コスト,環境,ノウハウには限りがある。「経営幹部がなかなか育たない」「社員が自律的に学ばない」「そもそも社員を成長させるために何から始めればよいか分からない」など,課題や悩みが山積するばかりで,解決の糸口すら見つからない実態も多い。

■会社からの期待は明確に伝わっているか

 企業の人材育成課題では上記のように悩みが尽きないが,実は少し工夫をすることで,社員が自律的に学び,成長し,生き生きと働く元気な会社に変えることはできる。人材確保が難しい昨今において,自律的に成長できる社員の育成は容易ではないが,このような状況下でも,「我が社の社員はしっかりと育っている」と胸を張る企業はいくつもある。
 そのような企業では,経営者や管理職が日頃から将来のビジョンを社員1人ひとりに語っている。自社の成長のために,数年後どのような人材になってほしいのかという会社からの期待が,各自に明確に示されているのだ。さらに人事評価制度や教育制度が会社のビジョンと結びついていて,社員への期待を具現化している点も大きな成功要因といえる。社員は3年後, 5年後といった未来の姿をイメージでき,それによって,成長したい意欲と会社に貢献したい意志が生まれる。結果として,社員は将来を見据えて今何をすべきかを逆算して考える習慣が身につき,自律的に学び成長する人材が多くなるのだ。
 大切なのは社員の成長をただ待つのではなく,社員が自ら成長した場合に得られる理想の姿や未来の可能性を会社から提示することである。そうすれば社員もその理想の実現に向けて一緒に成長していく手応えを感じ,自ら成長意欲,学習意欲を高めていけるはずである。

■埋めるべき「ギャップ」と「思い」をつなぐ

 具体的な成長課題・学習課題は,「理想」と「現実」のギャップに見出せる。すなわち,会社の成長目標を社員1人ひとりの成長目標に落とし込み,理想と現実を可視化することで埋めるべきギャップは見えてくる。ではそのプロセスから具体的な課題が明確になった場合,次にどうすればいいのか。
 会社としては,ギャップの改善を目指し,PDCAサイクルを回しながら人材育成の仕組みを構築することになる。それは,例えば社員に対する教育訓練・能力開発の機会提供であり,さらには継続的に人材の質を高めていけるように運用を工夫していくことである。ただし,人材育成の仕組みの構築も制度運用も,教育部門の担当者が頑張ればできるという話ではない。学習当事者である社員1 人ひとりが気づきを得て自律的に取り組むのが基本だとしても,経営者や管理職,人事や総務,さらに現場の各部門を巻き込んだチームワークの支援によってこそ,“共に成長できる会社”を目指す環境は築かれる。
 社員が自律的に学び,企業が成長する仕組みの作り方に正解はない。会社を発展させていくのは社員であり,“共に成長していく意志”が理想を叶える力になる。大切なのはカリキュラムそのものよりも,考え方や理念である。

(月刊 人事マネジメント 2016年10月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
トーマツ イノベーションにおける講師育成の責任者として、豊富な経験を基に幹部研修・管理職研修を中心に年間150回以上、累計1,000回以上のセミナーを実施。さらに人材育成アドバイザリーとして、保険、通信、製造、商社、IT、サービス業など幅広い分野において人材育成の制度構築とサービスを提供。

>> トーマツ イノベーション株式会社
 http://www.ti.tohmatsu.co.jp/