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経営人材育成を成功させるポイント

コーン・フェリー・ヘイグループ(株) シニア プリンシパル 田中大貴

 2015年度導入のコーポレート・ガバナンスコードの要請もあり,経営人材育成に向けた取り組みが本格化しています。しかし,経営人材育成というと,雲をつかむような大きな話,何となく難しそう,手に負えない課題などと受け取られるかもしれません。そう感じるのは,何をどのような順番で検討していけばいいのか分からないから,というのが1つの理由だと考えられます。手順を追ってみていくと,検討すべきことは割とシンプルです。

■ステップを分解して段階的に取り組む

 まず,@そもそも「経営人材」とは誰を指すのかを定義する必要があります。一般的には,取締役,執行役員・執行役などのトップマネジメントですが,もう一段下のレイヤーで経営を担っている人材を含めて考える会社もあります。次に,A経営人材に求められる要件の定義です。経験,コンピテンシーなどの能力・スキル,性格的資質などが要件として定義されます。グローバル化が進む大企業では,複数の国・事業・部門の経験を望ましい要件に挙げたりもしています。ここで重要なポイントは,経験・能力・スキルの要件は,現状ベースではなく将来の事業環境・事業モデルをベースにした“未来志向”で定義することです。未来志向とはまさに経営の意思です。経営人材とは誰か,経営人材の要件は何かをはっきりさせるには,トップマネジメントの強い意思とリーダーシップが求められます。次が,Bサクセッサー(後継者)の選出です。候補人材の量と質は各社異なりますが,注意すべきは,自社・自部門で,今,優秀な人が必ずしも有望な候補者とは限らない点です。あくまで未来志向で定義された要件に照らし,将来その要件を満たすポテンシャルがあるかを,シビアに見極める必要があります。要件に照らして候補者の育成ギャップを特定した後は,Cギャップを埋める異動・配置を含むアサインメント,上長を中心とした継続的サポートを行い,定期的なレビューを通じて育成します。

■想定されるハードルと,乗り越えるヒント

 経営人材育成が難しく,思うように進まない要因は各社事情が異なりますが,よく耳にする例として,未来志向での要件定義に合意する難しさ,サクセッサー候補の客観的評価とシビアなポテンシャルの見極め,育成目的の異動・配置の難しさ,トップマネジメントの継続的な育成サポートの不足などが挙げられます。未来志向での要件定義の難しさは,そもそも未来の姿が見えない,また,レベルの高い要件定義をする場合に現職者も高い要件を満たす十分な経験・能力を備えているかが問われ兼ねないため,及び腰になるといった事情が考えられます。サクセッサー候補のシビアな評価・見極めでは,同じ釜の飯を食べてきた部下への評価が甘くなるといったことも課題に挙げられます。また,育成目的の異動・配置については,就かせたい上位ポストが空かない,あるいは現場が人材を抱え込んで効果的な異動・配置が難しいといった状況も起こりがちです。これらが意味するのは,経営人材の育成はトップマネジメントの強い意思,コミットメント,サポートがなければ実行・実現が非常に難しいということです。
 経営人材育成のニーズは今後さらに高まり,長期的に取り組むべき経営課題として重要性が増していきます。しかし,最初から大掛かりな取り組みを実施すると様々な困難に直面するでしょう。そこで,初期段階では「ポジションを絞る」「特定部門に絞る」もしくは強力なリーダーシップとコミットメントで育成を推進するリーダーがいる部門で「パイロット的に開始する」などして,成功事例を積み上げながら仕組み化していくことも現実的だと思います。

(月刊 人事マネジメント 2016年11月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
イプソス・ノヴァクション、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、コーン・フェリー・ヘイグループに入社。消費財、小売、医薬品、情報通信等の幅広い業界に対し、組織変革、組織設計、リーダーシップアセスメント・育成、M&A支援など、多様なコンサルティングに従事。東京大学教養学部卒業、アムステルダム大学大学院社会科学修士、インシアード(INSEAD)経営学修士(MBA)修了。

>> コーン・フェリー・ヘイグループ株式会社
 http://www.haygroup.com/jp/