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多様な労働力をもっと活かそう

(株)ツナグ・ソリューションズ 取締役 / ツナグ働き方研究所 所長 平賀充記

■働き方改革推進中の過労死という衝撃!

 「長時間労働」の問題が,俄然,注目を浴びています。安倍首相自らが経済再興の第三の矢と位置づけた「働き方改革」。その大きな柱として「長時間労働の是正」が掲げられるなかで,大手広告代理店での過労死事件が発覚しました。この事件は,図らずも日本型雇用システムの限界を鮮明に映し出しています。高度経済成長を支えた日本型の雇用は,新卒一括採用,終身雇用,年功序列などの世界でも稀有な仕組みを取り入れ,雇用の「絆」を強めていくシステムです。分かりやすくいうと「即戦力でもない学卒者が採用してもらえて,一生面倒見てもらえる」わけで,企業への帰属意識はおのずと高まります。しかし一方で,労働者へ高い忠誠心を要求する雇用の「鎖」という面も強く,長時間労働を誘発しやすいリスクが潜んでいます。

■正社員って,本当に幸せですか?

 このように日本の正社員は,「働く」が「生きる」のほとんどを占める人たちです。雇用の安定と引き換えに,長時間労働は当たり前。「働く」にすべてを捧げ,「働く」からのリターンに期待し,「働く」との距離が近すぎて抱える悩みも大きくなるのです。果たして「正規」というだけで幸せでしょうか。 一方,「非正規」と呼ばれる働き手は「生きる」の一部に「働く」がある人たちといえます。そもそも「働く」という土俵だけでは生きていないのです。「生きる」と「働く」の距離感がちょうどいい,等身大の生き方。その距離感が個々によって多様であるという考え方がしっくりくるでしょう。いわばワークライフディスタンスです。
 雇用の鎖につなぎとめるハードマネジメントは,もはや通用しませんし,稚拙です。まして一億総活躍社会を担う21世紀の労働市場の主役となる「多様な労働力」を活かそうとするなら,個々の働く距離感を理解して向き合うマネジメント力が不可欠です。

■多様な労働力活用の第一歩は採用戦略から

 多様な労働力の活用における人事戦略のポイントは,何をおいても採用戦略に尽きます。そして採用戦略のポイントは次の3点です。
 まず1つ目は『モザイクシフト設計力』。多様な働き手の活用は,各々制約条件を持った人たちを短時間シフトで,どう回していくかということになります。1日をどれだけ細かい時間に刻むかという観点ではなく,どういう人に勤務してもらうかを想定してシフトを設計する力が問われる時代です。このシフト設計と人材ポートフォリオ設計が,まさに多様な働き手を採用するうえでの肝といえます。
 2つ目は『採用コミュニケーション力』。学生,フリーター,主婦,高齢者など,多様な働き手で構成される人たちを採用するのに,同じコミュニケーションでは通用しません。絞りこんだターゲットに深く刺さるコミュニケーションが必要なのです。具体的にいうと,「若年層」がどうしても必要なら,例えば募集広告で賄いのメリットを押し出すとか。あるいは労働力のボリュームゾーンとなる「主婦層」に的を絞るなら,勤務時間に融通を効かせるという訴求はマストになるでしょう。“誰でもいい”では誰も来ません。狙いをはっきりさせたうえでの戦略的な採用コミュニケーションが重要です。
 そして最後は『“多様な労働力”の正しい理解』。「非正規2,000万人」とひとくくりにされがちですが,自ら「多様な働き方」を選択している人が,その83%にも上るという事実に目を向けましょう。この多様な労働力がポジティブな働き手であるということを認識し,彼らを活用する意義を本気で感じること。ここが採用戦略の要諦となります。

(月刊 人事マネジメント 2016年12月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
1963年生まれ。同志社大学卒後、(株)リクルートフロムエー(現リクルートジョブズ)に入社。人事部門で新卒採用を担当した後、社内留学制度でニューヨーク滞在。帰国後「FromA関西版」「FromA東海版」創刊に携わり、1998年から「FromA東海版」編集長に。2008年からは「FromA」「FromA_NAVI」「タウンワーク」「とらばーゆ」「ガテン」などリクルートの主要求人媒体の全国統括編集長。2012年リクルート分社化で(株)リクルートジョブズ メディアプロデュース統括部門担当執行役員に就任。2014年(株)ツナグ・ソリューションズ取締役に就任。2015年ツナグ働き方研究所を設立、所長に就任、今に至る。 「不況期ならではの人材採用成功の秘訣 本当にいいヒト 採っていますか? 」「天職のススメ 自分らしく働ける仕事に出会うための6か条」「今、企業が求める人材」「親として知っておきたい就職活動」など講演多数。

>> 株式会社ツナグ・ソリューションズ
 http://www.tsunagu.co.jp/