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人材不足のときこそ採用はビジョン重視で

生きがいラボ(株) 代表取締役・社会保険労務士 福留幸輔

 人事を取り巻く大きな環境変化として「働き方改革」がありますが,現在の緊急課題として皆さまの頭を悩ませているのは,「人材不足」ではないでしょうか。平成30年3月の有効求人倍率(季節調整値)は,前月比0.01ポイント上昇の1.59倍,新規求人倍率(季節調整値)は前月比0.11ポイント上昇の2.41倍となり,ほとんどの業界で人材不足の状況にあることが統計資料からも見て取れます。また肌で感じる実感としても,「募集しても応募がない」という声をお客さまからよく聞きますので,人材不足に悩んでいる企業は非常に多いと思われます。

■安易な採用では後になって問題が起きる

 現在は人材不足の状況ですが,景気と同じように人材の需給は循環しますので,いずれは人材の供給過多がやってきます。このことを頭では理解しながらも,人材不足を埋めるために安易な採用施策をとってしまう事例は多くあります。そして,後々になって問題が起きるといったお話もよく見受けられます。例えば,次のようなケースです。

 ●初任給を高くしたために,実力以上の給料を払い続けることになってしまった
 ●人材不足時期に採用した社員と,他の社員との給与水準に不公平が生じてしまった
 ●社風に合わない社員が入社し,組織を乱す言動を繰り返した後に退職してしまった

 私は数多くのコンサルティング先で,このようなケースをたくさん見てきました。そしてこれらの問題は,原因となった採用から数年後に顕在化しますので,しばらくは問題点に気づかずに同じことを繰り返してしまいがちです。採用というのは人事施策の一部分であり,配置・評価・処遇・育成・人件費管理・労務管理などを総合して意思決定していくべきです。「人が足りないから」という理由だけで,安易な施策に走らないように注意が必要です。
 もう少し本質的に,この問題を観たいと思います。このような問題が発生したとき,企業・人事サイドから見ると「問題社員を採用してしまった」ということですが,果たしてそうでしょうか。

■採用はお互いの「ビジョン」を理解してから

 私は,「問題社員」と呼ばれている方との面談を行うこともありますが,話を聴いてみると,その問題社員にも「正義」があり,その社員の側に立つと「会社に問題がある」と感じていることがほとんどです。つまりは,会社と社員の双方が,相手側に問題があると考えているのです。そして,お互いの「正義」が衝突した場合は,「善悪」の判断によって解決することは不可能になります。
 では,どうやって解決するかというと,お互いの目的,つまり「ビジョン」(※)から判断するしかありません。※「理念」「ビジョン」「ミッション」など,様々な目的を表す言葉がありますが,ここでは「ビジョン」とします。
 会社の「経営ビジョン」と社員の「人生ビジョン」が同じ方向性であれば,お互いを尊重して進んでいけるはずです。しかし,双方のビジョンが違う方向性であれば,お互いを尊重する関係は築けませんし,もっとはっきり言うと「関係を解消したほうがお互いのため」となります。このように考えると,採用とは,お互いを尊重して進んでいけるかを確認し合い,そのうえで契約締結することです。これが,採用のあるべき姿です。
 人材不足の状況では,「とりあえず入社してもらいたい」という気持ちが強くなることは分かります。しかし,ビジョンを共有できない人材を採用することは,会社にとっても,社員にとっても不幸です。人材不足のときだからこそ,本質に立ち戻った採用活動にすべきだと思います。

(月刊 人事マネジメント 2018年6月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
米国を中心に新しい人事制度として注目され始めているNo Rating(ノーレイティング)の人事制度に関して、いち早く2010年から設計・運用コンサルティングを行っている。総務・人事畑出身者が多い人事コンサルタントのなかにあって、法人営業・経営企画・WEBマーケティング・社長秘書などの多彩なキャリアを持つ異色の人事コンサルタント。

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