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WLV(ワーク・ライフ・バリュー)の理解と支援を

(株)OKAN 代表取締役CEO 沢木恵太

 企業の成長には,事業と組織の両方の施策が必要です。事業はもちろん,組織の成長も伴わなければ,企業は発展しません。組織の成長を意識する企業から離職の悩みを聞く機会が増えてきました。人材を獲得しても流出してしまっては意味がありません。我が国は人口減少に伴い,労働力人口も減少しています。有効求人倍率は上昇を続け,人材不足は身近な問題になりました。ただ,出産・育児のために辞めざるをえない,健康を損ない働き続けられない,介護のために実家に戻らなければならない,いろいろな「生活=ライフスタイル」に関する理由で「働きたいけど働けない人」もたくさんいます。これらの問題は個人の力だけで解決することは難しく,会社が状況を理解し,支援していく必要があります。
 離職者が出た場合,その人に投資した採用・育成のコスト損失に加え,後任者を採用・育成していくために新たにコストが発生します。金額面だけでなく,知識の損失,チームの生産性低下なども含めれば,離職がもたらす企業経営へのマイナス影響は計り知れません。従って,必要な人材の望まない離職の予防は重要な経営課題といえます。

■WLV(ワーク・ライフ・バリュー)を理解しよう

 人材投資の形も変わり始めています。従業員体験の向上に取り組む企業が増加しています。なかでも,離職防止の意味から一見仕事とは関係のなさそうな生活部分に投資する企業が増えてきました。これを考えるとき,退職要因を解き明かしたフレデリック・ハーズバーグの「二要因理論」が参考になります。理念への共感や仕事内容へのやりがいなど,満足度をさらに向上させる「モチベーター」。そして,健康・家庭との両立など生活基盤の安全性や同僚との関係性など,不満足を取り除くための要因,すなわち失った際のインパクトが大きい「ハイジーンファクター」の概念です。離職に関する厚生労働省の調査では,モチベーター起因が約2割,ハイジーンファクター起因が約8割という結果が出ています。このデータを見ると,パフォーマンスを上げる「やりがい」支援に加え,ハイジーンファクターとの両方に投資が必要であることが分かります。働き方が多様化する今,仕事・社会・個人(家庭)を取りまく価値観は多岐にわたり,人によって欲求の順位や重視する要素が異なります。だからこそ,仕事と生活と個人の調和を図っていくうえで個人が大切にしたいと思う価値観「WLV(ワーク・ライフ・バリュー)」を理解し,支援していく必要があるのです。

■WLV支援の3つのステップとは

 WLVは個人の問題にとどまりません。企業として何を大切にするのか,どのような働き方を重視するのか,こちらも重要な着眼ポイントです。WLVを支援する取り組みはすでに多くの企業で実践されています。例えば,サイボウズの「働き方宣言制度」,メルカリの「Merci Box」などもWLVを支援する取り組みといえるでしょう。
 WLVの支援は以下の3ステップで進めます。
@課題の可視化“診断”:個々人・部署・会社全体の傾向を理解
A対策の立案“処方”:診断をもとに,何を大切にするのか,どこに投資するのかを立案
B施策の実行“投薬”:処方をもとに実行
 実際はこの3ステップで終わりではありません。実行後に診断し,施策がどのような結果につながったのかを確認し,改善につなげていきます。可能性がありそうなものはまずやってみる,そのうえで診断し,効果があったものを残していく。失敗してもいいので,効果のあるものを探すように取り組みを進めることがWLV支援のカギとなります。

(月刊 人事マネジメント 2019年7月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
1985年長野県茅野市生まれ。中央大学商学部卒。フランチャイズ支援および経営コンサルティングを行う一部上場企業にて新規事業開発,ベンチャー企業でゲームプロデューサー兼事業責任者を経て,EdTech領域のスタートアップに初期メンバーとして参画。2012年12月に株式会社おかん(現在・株式会社OKAN)を設立し,代表取締役CEOに。「働く人のライフスタイルを豊かにする」をミッションに,2014年3月には,ぷち社食サービス「オフィスおかん」をスタート。2016年9月,一般社団法人ワーク・フード・バランス協会を設立し,代表理事に就任。

>> (株)OKAN
 https://okan.co.jp/