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駐在員妻たちの能力を活かそう

駐妻キャリアnet 代表 / (株)TORCH COO  三浦 梓

 外務省が在外公館などを通じて実施した「海外進出日系企業実態調査」によると,2020年10月1日時点で海外に進出している日系企業の総数(拠点数)は80,373社。外務省「海外進出日系企業実態調査」(平成26-29年要約版)より“駐在員妻”の数を算出すると,約10万人(*)。
*計算式:長期滞在者における「民間企業関係者」の女性同居家族−(長期滞在者の在留邦人(学齢期)子女数/2)

■駐在員妻たちのポテンシャルに注目

 世界各地に約10万人いる駐在員妻(以下「駐妻」)。みなさんが思う駐妻とはどのようなイメージでしょうか? 2021年6月に津田塾大学で講演を行った際,駐妻のイメージについて学生たちにアンケートを行いました。学生たちの回答は,「海外で家事をやる奥さん」「優雅なイメージ」「暇そう」「働いていない人」といった声が並び,最も多かった回答は「知らない」でした。私も2020年1月に自身が駐妻になるまで彼女たちがどのような人たちでどの程度のポテンシャルを持っているのか全く知りませんでした。しかし,海外に来てまず驚いたのは,@行動力がある,A失敗に動じない,B諦めない,人が多いという事実でした。拙い語学力でも主張しないと生きていけない環境が人を強くしていると思われます。特に,駐妻になっても働き続けたいという女性たちの力には目を見張るものがあります。なぜなら,「働かなくてもいい」と夫の会社から言われているにもかかわらず,自ら「働きたい」と鼓舞して行動しているからです。働くことが好きで成長意欲が高い女性たち。
 現在,私が代表を務める「駐妻キャリアnet」には,上記のような女性たちが世界54ヵ国615人います。ハイレベルな学歴を有し,外資コンサル,商社,大手メーカーなどで7 年以上勤務してきた駐妻たちは,人事目線で見ても即戦力人材ばかりです。自由時間を活かして「働く」ことを選択する意欲にあふれています。駐妻キャリアnetを介して求人企業の面接を受けた人の合格率は94%(3ヵ月後の就労継続率は100%)です。

■リモートで活躍の場は拡大中

 そこまで意欲・能力・経験が豊富な人材なら,海外現地で働けるのではないかと思うかもしれません。しかし,現地で働こうとすると,語学力と滞在期間の不透明さという2つの壁があり,現地企業での就労は難しいのです。
 一方,コロナ禍を契機にリモートワークが追い風となり,今は働きたい駐妻たちは日本の企業と仕事を行えるようになってきました。日本企業にとって,海外に住む駐妻たちに仕事を依頼するメリットは以下の通り2つあります。
@出張せずに,旬の現地の情報が手に入る……駐妻キャリアnetでの事例です。自社商品を海外展開するための調査を考えていた企業がありました。南米やヨーロッパなどへの調査費用,現地に住む日本人探しは想像以上に大変です。そこで,駐妻コミュニティである私たちの会員から12名(世界8ヵ国)による座談会を実施,さらに各メンバーの友人たちへのアンケートを行い,結果的には海外展開のタイミングを再考する決断を導き出しました。
A時差を生かした稼働が可能……例えば,校正業務を日本の夜20時にブラジルに住むメンバーに依頼すると,ブラジルでは朝の8時ですからその日の午後に作業し,夕方18時には納品できます。翌朝日本の担当者がPCを開いたら校正が終わっていたという非常に効率的な業務フローが実現します。
 他にも,資料作成,翻訳,コールセンターといった仕事がリモートの活用により拡大しています。

(月刊 人事マネジメント 2022年6月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
2007年、同志社大学大学院卒業後、株式会社リクルートに就職。営業、商品企画、人事を経験後退職し、A.T Kearney株式会社に採用責任者として就職。その後フリーの人事コンサルタントとして活動。同時に友人とヒューマンブランディングの会社を立ち上げCOO就任。2020年1月、夫の海外赴任(ブラジル)に帯同し、同年11月「駐妻キャリアnet」代表就任。慶應義塾大学大学院SDM研究科研究員、LinkedInクリエイター、ウィメンズ・キャリア・メンター、話し方研究所プロフェッショナルインストラクター。

>> 駐妻キャリアnet
  https://chuzuma-career.net/