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「人的資本」の価値を高めるために

(株)ターンアラウンド研究所 代表取締役社長 西村 健

 「人的資本」が話題です。「人的資本」とは,これまで「費用」と考えられていた人財を,付加価値を生み出す「資本」として捉え直す考え方です。人財こそが競争力の源泉であると認識されてきたことが考え方の変化の背景です。人財を「資本」として捉え,その価値を向上させる投資を行い,価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる経営が,今,求められています。

■人的資本経営の要点とは

 人的資本経営の要点は,第一に「可視化による現状把握」です。以下のような情報を可視化することで,現状把握が可能になります。
□ 費用:総人件費用・外部人件費用・給与と報酬の平均額・総雇用費用
□ 組織風土:ワークエンゲージメント・従業員満足度・従業員のコミットメント・従業員の定着率
□ 生産性:従業員1人当たりのEBIT(利払い前・税引き前利益)/収益/売上高/利益・人的資本のROI(人件費を除いた収益に対する,人件費の割合)
 第二の要点は「可視化結果を活用した分析」が可能になることです。数値をブレークダウンすると,各組織や各部署の現状が明らかになり,特徴や傾向・トレンドも見えてきます。他社とのベンチマークも可能になり,自社の置かれたポジションや強みが理解できるようになります。対外的に「選ばれる会社」としてのアピールになる一方,労働条件や労働環境がよくないなど,人財への向き合い方や課題が明らかになるかもしれません。いずれにせよ,採用や育成の診断・評価・改善が可能になります。
 第三の要点は「可視化結果の共有と公開」です。例えば,投資家や求職者に客観的で的確な情報が共有できるようになります。人財に価値があるなら将来利益も見込めるわけで,企業投資の根拠になるでしょうし,将来像に期待して創造力あふれる「イノベーション人財」も参画してくるでしょう。

■自社の人的資本を盤石にする条件

 それでは,どのようにして自社の人的資本を盤石にしていけばいいのでしょうか。
 第一の条件は,企業経営と人事の関係性を明確にする,いわゆる「戦略人事」へのシフトです。人事のための人事ではなく,企業戦略を実行するための人事が機能していれば,人財への投資はより進みます。給与,研修,カウンセリング,キャリア教育,福利厚生,その他,人事への投資額は増えるでしょうし,企業戦略に合致した投資対象への配分という選択と集中の判断が働くようになります。また,人事・組織のあり方では,経営戦略に紐づいた組織構築,権限と責任付与,人事配置,人財採用・抜擢,人事評価をより明確にしていく必要があります。
 第二の条件は,ジョブ型人事の導入や副業の容認などを含む「働く環境」の整備です。単に,給与を上げるといった施策で人財を集めることは難しく,下記のようなポイントが重要になるでしょう。
権威主義的な文化ではない「風土」
前例踏襲ではない,有効かつ効率的でモチベーションが高まる「仕事の仕方」
ジョブ型雇用による多様なバックグウランド・キャリアを持ったメンバーからなる「多様性」
権限や肩書を意識せず,多様な観点から闊達な議論ができる「オープンさ」
人を尊重し,助け合い,協力し,共存共栄を図る「関係性」
 気持ち良い環境で働き,仕事を通じて学び,体験を通して成長し,社員を中心としたステークホルダー同士が協力して成果を出し,企業業績が拡大する,という人と組織の良好な相互関係が求められます。

(月刊 人事マネジメント 2022年8月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
慶應義塾大学法学研究科修士課程修了後、アクセンチュア(株)に入社。グローバル企業・官公庁の業務改革のコンサルティングに従事。その後、(株)日本能率協会コンサルティングに入社。地方自治体の行政改革を中心に、経営戦略・計画策定、人事制度設計・人事評価導入、事業評価と業務改善などの経営コンサルティングに従事。所属部門の解散に伴い、退社・独立。2021年、(株)ターンアラウンド研究所を創業し、新規事業・イノベーション支援、人事評価設計・運用支援、ジョブ型雇用導入支援、デジタル・DXイノベーション支援を行っている。専門は人事評価、目標・KPI設定、業務改善、各種データ分析など。その他、「社会の医者」NPO法人日本公共利益研究所の代表、事業創造大学院大学国際公共政策研究所の研究員、行政機関の委員やアドバイザー、NPOの理事なども務める。

>> (株)ターンアラウンド研究所
  https://www.turnaround.tokyo/