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「推仕(おし)ゴト」改革のすすめ

(株)NEWONE 代表取締役社長 上林周平

 2010年代から政府主導で働き方改革が推進され,多くの企業は10年以上前と比べても働きやすくなったといわれています。長時間労働,低賃金,劣悪な職場環境,高い離職率といったブラック企業は良くないという認識は進みましたが,「働きやすさ」の制度は整っているものの,スキルが身につかない,適度な負荷がない,成長実感や貢献実感がないなど,「働きがい」に欠けた「優しすぎる職場」が増えています。そうした影響もあり,若手社員において,現状の職場に対する「不満」型転職が減っているのに対して,自分自身の成長やこれからのキャリアに対して不安を感じて退職する「不安」型転職が増えているといわれます。人事部門としては,どのような手を打つべきでしょうか。

■エンゲージメント・サイクルで「推せる職場」を

 目指すべきは「優しすぎる職場」ではなく,働きやすさも働きがいも両方ある「推せる職場」です。「推せる職場」とは,チームや組織に対して参画している実感があり,ハマるように前のめりに仕事に取り組むことができ,かつ人に推薦したくなる(推したくなる)職場,と弊社では位置づけています。
 働きやすさに加えて働きがいもあるこの「推せる職場」を作るうえではエンゲージメント・サイクルがキーとなります。エンゲージメント・サイクルとは,仕事・上司・チーム・会社に対する「@ポジティブ感情」,やるべきことを自分で決めている感覚である「A自己決定感」,行ったことへの手応えである「B成長・貢献実感」がスパイラルアップしている状態です。ちなみにこのサイクルは,趣味などにハマるときと同様です。何かに興味を持ったり,仲の良い友人から勧められたりして,自分で決めてやってみる。そうすると,思ったよりも良い反応があったり,手応えを感じたりして,前向きに自分から再度やってみる。その結果,どんどん没頭していく。このメカニズムと同じです。仕事の場でこのサイクル全体を進めるコツは2つあります。1つは,すべてのステップで「感」が使われるように,前向きな感情を出して働けるようにすること。もう1つは,1人で指示されたことだけを自らの工夫なく機械的にこなすのではなく,チーム一体となって一緒に成し遂げていく感覚を作り,その結果どんどんチームを拡げたくなる状態を作ることです。

■「優しすぎる職場」から「推せる職場」へ

 2030年に人手は644万人不足するともいわれます。実際,人手不足倒産は2023年に過去最高を記録しました。そういった時代に突入するにあたり,人材獲得は経営における重要なテーマです。しかし人手不足が深刻化する昨今では,ただ採用広告費を多くかければ良い人材を獲得できるほど簡単ではありません。これからの時代は,まず「推せる職場」を作り上げ,働く人が働きがいを持って取り組み,周りに推薦したくなる職場を作る。そして「推せる職場」によって,リファラル採用が増えていくような状態にする。それがこれからの人材枯渇時代の企業の必須事項になるでしょう。
 今,エンゲージメント向上施策として,1on1の導入,キャリア面談の強化,心理的安全性風土の醸成,リモートを含めた多様な働き方,ビジョン浸透などの施策を行う企業は多くあります。それらの施策一つひとつをエンゲージメント・サイクルの観点で定期的にチェックし,好循環が継続する「推せる職場」を目指してブラッシュアップしていくことが人事担当者など企画する立場にとっては大事です。「優しすぎる職場」から「推せる職場」へ変革を促す「推仕(おし)ゴト改革」が,次の取り組み課題になっていくでしょう。

(月刊 人事マネジメント 2024年3月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
大阪大学人間科学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。2002年,(株)シェイク入社。企業研修事業の立ち上げ,商品開発責任者としてプログラム開発に従事。新人から経営層まで多様な対象にファシリテーションを展開する。2015年,代表取締役に就任。2017年9月,これからの働き方をリードすることを目的に,エンゲージメント向上を支援する劾EWONEを設立。米国CCE.Inc.認定キャリアカウンセラー。近著に『組織を変えるリーダーの教科書 人的資本の活かしかた』がある。米国CCE,Inc.認定キャリアカウンセラー。

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