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若手の離職防止のカギは「We感覚」

(株)リンクアンドモチベーション フェロー 小栗隆志

 「来月も頑張ります!」と言っていた若手社員が,その翌週に退職届を持ってきた----。上司からすれば青天の霹靂ですが,なぜこのようなことが起きるのでしょうか。これは,若手社員が持つ「2つの人格」のギャップによると考えられます。2つの人格とは,個人の自由な意志や動機に基づいて言動する「個人人格」と,組織から与えられた役割に基づいて言動する「組織人格」です。前述の例では,上司の前では組織人格で前向きに仕事に取り組んでいましたが,実は個人人格では自らのキャリアを冷静に考え,転職を進めていたということでしょう。

■離職防止に不可欠な「We感覚」

 若手社員の定着を実現するために「オンボーディング」が重要視されています。オンボーディングとは,新入社員が会社の業務に慣れるまでサポートする活動の総称で,一般的には,新入社員の迅速な「戦力化」を目的としています。これはこれで重要な取り組みですが,新入社員の離職防止(定着)を目指すのであれば,オンボーディングのゴールを「戦力化」ではなく「一体化」に置くべきです。
 入社して日が浅い若手社員は,「この会社にいて,自分のキャリアは大丈夫だろうか?」などと個人人格で疑念を抱きながら働いています。このような会社を品定めしている状態では,ちょっとしたきっかけで離職に至る可能性があります。しかし,一定期間を過ぎると品定めのフェーズは終わり,「この会社で働いている自分が自然だ」と感じられるようになります。そのときによく見られるのが,自社のことを「うちの会社は」ではなく「私たちは」と言い方が変わることです。個人人格と組織人格の境目がゆるやかになり,自分と会社が「一体化」した証拠といえるでしょう。私はこれを「We感覚」と呼んでいます。この感覚を持っている若手社員は,簡単には離職しません。

■若手社員の「We感覚」を育むために

 若手社員の「We感覚」を育むポイントを3つご紹介しましょう。
@意思決定への関与……組織の意思決定に関わってもらうことで,「We感覚」を持ちやすくなります。例えば,組織の方針・戦略の話し合いに参加してもらうなど,若手社員が「自分も会社と一緒に意思決定したんだ」という手応えが得られるような工夫をしてみましょう。
A採用・育成担当へのアサイン……採用活動や後輩の育成担当にアサインするのもおすすめです。採用・育成に関わることで,「自分は会社を代表して話している」という代表者感覚が醸成されます。学生や後輩に話すときは,主語を「うちの会社」ではなく「私たち」にしたほうが相手に響きやすいため,このような発言を繰り返しているうちに,自然と「We感覚」が育まれていきます。
B非公式組織への参加……職場の人間関係に悩みを抱えている人ほど,離職に至るリスクが高くなります。しかし,部活動や趣味仲間,同期入社のつながりなど,仕事とは関係なく,プライベートでも付き合える仲間が社内にいればセーフティネットになってくれます。アメリカの経営学者,チェスター・バーナードは,このようなつながりを「非公式組織」と呼び,その重要性を説いています。非公式組織に属し,社内に仕事以外の人間関係を構築できている若手社員ほど,「We感覚」を得やすくなります。
 個人と会社は,あるきっかけで突然一体化するわけではありません。長い時間をかけ,徐々に「We感覚」を獲得していくのが通常です。ただ,上記のように会社が意識的に機会を提供することで,その醸成を加速させることはできるでしょう。

(月刊 人事マネジメント 2024年4月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
早稲田大学卒業後、2002年に株式会社リンクアンドモチべーション入社。営業・コンサルティングに従事し、幅広い顧客の組織変革を成功に導く。2011年に株式会社アビバ(現:株式会社リンクアカデミー)取締役就任。2014年に株式会社リンクアカデミー代表取締役社長就任。2017年に株式会社リンクアンドモチべーション取締役就任。組織から選ばれる個人(アイカンパニー)創りを支援する個人開発部門の統括責任者を務めた後、2023年より現職。

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