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リスキリングを加速させるために

アルー(株) 代表取締役社長 落合文四郎

 企業が人材に求めるスキルや働く人々の価値観の変化などにより,人と組織の関係性が変化しつつあります。企業には,個人が自己のスキルを継続的に磨き,成長できる環境作りが求められ,この変化がリスキリングの重要性を高めています。

■企業がリスキリングで直面する課題とは

 一方で,リスキリングの推進には様々な課題があります。その1つに,リスキリングに対する個人の主体性の弱さが挙げられます。社会的にリスキリングの重要性の認識が高まっていることと,社員一人ひとりが主体的にリスキリングに取り組むことにはギャップがあります。これまでの日本の経営では,会社が社員のスキルアップの場を提供し,社員がそのベネフィットを享受するという形態をとってきました。このような関係では,個人が主体的にスキルアップする意識や行動習慣を獲得しているとは限りません。従って,公募研修やeラーニング受け放題などの自律的な学習環境を整えさえすれば,リスキリングはうまくいくというわけにはいかないのです。例えば,eラーニングの受け放題サービスを導入しても利用率が低く,効果が限定的というのが典型的な失敗例です。
 ボトルネックは,企業としてどのような人材に成長してほしいのか能力要件を明確に提示できていない点にあると考えます。社内の役割やポジションに必要なスキルの体系化と可視化ができていないと,社員が自分のキャリアイメージに合致した学習目標を設定したり,会社が効果的な人材育成計画を策定したりすることが難しくなります。こうした課題は,多様な職種や役割が存在する大企業で顕著です。また,そもそもなぜリスキリングが大切かについて,会社の理念や経営方針から紐づけて社員へメッセージを発信できている企業は限られています。

■リスキリングで効果を上げるポイント

 リスキリングで効果を上げるためには,多くの社員が主体的にリスキリングに取り組むという理想を一足飛びに実現しようとするのではなく,社員が学習へのモチベーションや習慣を獲得するための段階的なステップを提供していくことが現実的なポイントになります。
 最初に,スキル習得と社内の役割・ポジションとの関連性を明確にし,社員がその意義を実感できる仕組み作りが不可欠です。自社組織でのキャリアアップとの結びつきを明示しつつ,具体的に何を受講すればよいかについてガイドします。
 当社はこれまでのノウハウや知見を活かし,「階層×能力要件」を体系的に表す「コンピテンシーマップ」を顧客に提供しています。役割ごとに求められるスキルや習熟度が可視化されることで,社員は目的意識を持ってリスキリングに取り組めます。また,企業は社員の個人としての成長を継続的に支援しながら,自社戦略に沿った人材育成を推進できます。具体的には,若手・中堅社員を対象に年次ごとに求められる能力要件を明確にし,その能力要件に紐づいた公募研修やeラーニングを必須・選択科目として明示するなどの施策例があります。このような環境を提供することで,社員が学習習慣を身につけるサポートを進めます。
 学習習慣が身につけば,次のステップとして,社員は自らのありたい姿に基づいて自由度高く選択できる環境に移行していけるでしょう。ただし,この段階でも,社員が学習した行動・結果について会社が承認・評価する枠組みは必要です。社員の学習履歴を蓄積しながら,評価・報酬・異動・抜擢などの人事・組織運営に活用していくことで,社員も会社も望ましい方向に進んでいけるでしょう。

(月刊 人事マネジメント 2024年7月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
1977年生まれ。2001年、東京大学大学院理学系研究科修了後、株式会社ボストンコンサルティンググループ入社。2003年10月、現・アルー株式会社を設立し、代表取締役に就任。企業の課題を一つひとつ解決することを通して社会への貢献を果たすことを目指し、人材育成支援に取り組んでいる。「夢が溢れる世界のために、人のあらゆる可能性を切り拓きます。」をミッションに掲げ、教室型研修をはじめ海外拠点での研修、LMS(ラーニングマネジメントシステム)「etudes」など幅広くサービスを展開。元京都大学経営管理大学院特命教授。

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