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金融リテラシー研修のすすめ

(株)ウェルス・マインド・アプローチ 代表取締役
金融教育アドバイザー 上原千華子

■「ファイナンシャル・ウェルネス」の時代に

 人的資本経営の重要性とともに,日本企業では「人材の強化」と「従業員の満足度向上」に対する意識が急速に高まっています。特に,離職率の低減は重要な課題です。その解決策の1つが「ファイナンシャル・ウェルネス」(=従業員の経済的な安定)を支援する取り組みです。金融庁の調査では,金融リテラシー研修を実施している企業は新規採用や人材流出防止に有利であることが分かっています。金融リテラシーとは,金融知識を身につけ,日常生活で活用する力です。特にZ世代は,福利厚生が充実し安心して働ける環境を重視しており,金融教育を行う企業に高い関心を示しています。また,機関投資家の間では,離職率が高くメンタルヘルスの問題で生産性が低下している企業への投資を控える傾向があります。企業の人材戦略が投資先選定においても重要視されている証です。行動経済学や臨床心理学の観点からも,ファイナンシャル・ウェルネスは,従業員の離職率低下や生産性向上が期待できます。経済的ストレスは,睡眠障害や慢性疲労など,心身の健康を損なうリスクを高めるからです。また,欠乏感や焦燥感から判断力が低下し,職場でのパフォーマンスに悪影響を及ぼすと,結果的に休職,さらには離職へとつながるリスクが上昇します。
 経済的ストレスを軽減するには,健全なマネー習慣が必要です。つまり,適切な金銭管理や健全な資産形成などが必要で,金融リテラシーの向上が不可欠となります。従業員が金融スキルを身につけることで,安定した人材の確保ができ,企業の成長にもつながるでしょう。

■研修のポイントは,対象者・内容・タイミング

 金融リテラシー研修を導入する際は,3つのポイントを押さえましょう。
【ポイント1】対象者の選定
 全従業員を対象とします。新入社員や若手社員,30代以降はライフステージ(結婚,出産,住宅購入,退職など)に合わせた研修を行います。
【ポイント2】研修内容の決定
 基礎的な金融知識から始め,家計管理,保険,資産形成などを含む内容を学びます。2回目以降の研修では,参加者の要望に応じて住宅ローンや年金などテーマを絞ります。「金融教育=投資教育」のイメージが強いようですが,資産形成で最も重要なのは,目的を明確にすることです。ライフプラン,マネープランをきちんと立てて,マネー習慣を整えてから,資産形成をするようにしましょう。
【ポイント3】導入のタイミング
 新入社員には入社時研修の一環として,それ以外の従業員には繁忙期を避けて実施します。夏休み,年末年始など長期休暇の前に行うと効果的です。学んだことを家族と共有し実践しやすくなります。少なくとも年に1度は,全従業員が受講できる機会を設けましょう。
 初めて金融リテラシー研修を導入する場合は,J-FLEC(金融経済教育推進機構)や自治体など,中立的な団体から講師を派遣してもらうとよいでしょう。企業のニーズに合わせたカスタマイズが可能で,無料で効果的な研修が行えます。2回目以降は,ニーズと予算に合わせて講師を選定できます。
 金融リテラシー研修は,従業員の健康を守り,能力を最大限に発揮させるための基盤です。離職率の高い現場を好む従業員はいません。人事や福利厚生は,従業員への影響が大きいからこそ,時代の流れに合わせて変える必要があります。積極的に金融リテラシー研修を行い,ファイナンシャル・ウェルネスを実践してはいかがでしょうか。

(月刊 人事マネジメント 2024年10月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
金融教育家。欧米投資銀行勤務歴17年、個人投資家歴27年。証券外務員一種、NLP(実践心理学)マネークリニック(R)認定トレーナー。金融知識だけではお金の不安が消えなかった経験から、心理学を取り入れたライフプランと資産運用を教えている。「お金の教育をもっと身近に、心から豊かな人生を」がモットー。投資銀行では、金利・債券トレーディング部のリスク管理、クライアントサービスに従事。億単位のお金を動かすトレーダーの右腕となり、取引のリスク管理と顧客対応を行う。2018年(株)ウェルス・マインド・アプローチ創業。「3ヶ月マネー実践講座」を提供、ライフプランから資産運用まで自分でできるようマンツーマン指導。多忙な中小企業経営者から支持され、口コミでビジネスが広がる。現在は、企業・自治体・大学での登壇が中心で、のべ1,800名を指導。東京都金融リテラシー向上支援事業金融教育講師も務める。著書に『「お金の不安」をやわらげる科学的な方法 ファイナンシャル・セラピー』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

>> (株)ウェルス・マインド・アプローチ
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