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1on1を正しく機能させるには?

(株)Smart相談室 カウンセラー 春原晶子

 企業における1on1ミーティング(以下1on1)は,「個人の成長」と「組織の成長」を促進する有効な手法とされています。しかし,実際には十分に機能していないケースもあります。効果的に機能させるためには,何が必要なのでしょうか。

■「名ばかり1on1」「やらされ1on1」が横行

 企業で導入が進む1on1は,上司と部下のコミュニケーションにより信頼関係を強化し,部下の成長を加速させることによる「業務の改善」や「キャリア支援」を目的に行われます。しかし,その本来の目的が形骸化し「名ばかり1on1」や「やらされ1on1」が横行している現状も見受けられます。
 上司が「とりあえず義務だから」と形式的に1on1を行い,雑談ばかりで深い対話が行われない 「名ばかり1on1」,部下の意見を聞かずに上司が一方的に意見や指示を出す場に終始し,やらされ感が漂う「やらされ1on1」などは典型例といえます。このような1on1では,部下が本音を話す機会がなく,むしろストレスが増し信頼関係を悪化させることも少なくありません。
 こうした問題が起きる背景には,上司が1on1の目的を十分に理解していない,効果的な進め方のノウハウを持っていないことが挙げられます。その結果,1on1が時間の無駄だと感じられるようになり,形だけの実施に陥ってしまうのです。

■信頼関係を築く・回復させる仕組みとスキルを

 1on1を正しく機能させるためには,まず信頼関係の構築が不可欠です。信頼は一朝一夕で築けるものではなく,上司が日々のコミュニケーションを通じて誠実さを示し,部下の話に耳を傾ける姿勢を持ち続けることが重要です。
 具体的には,以下のようなポイントを意識すると,信頼関係を築きやすくなります。
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「聴く」スキルを磨く:上司は「自分の感情や考え」を脇に置き,部下の話に集中しましょう。部下の発言に対して,相槌を打つだけではなく,適切な質問を挟みながら深掘りする姿勢が求められます。これにより,部下は自分の考えが尊重されていると感じ,率直な意見や本音を共有しやすくなります。
明確な目的を設定する:1on1の目的が曖昧なままでは,単なる雑談に終わる危険性があります。上司と部下が合意したテーマを持ち,成長や課題解決に向けた具体的な対話を行うことが効果的です。
心理的安全性を確保する:部下がミスや悩みを安心して話せる場を提供することが大切です。上司は批判的な態度を取らず,むしろ部下をサポートしようとする姿勢を示しましょう。
信頼関係を修復する:さらに,信頼関係が損なわれた場合に備えて,修復を可能にする仕組みとスキルも必要です。そのためには,上司が率直に謝罪し,部下の不満や要望を真摯に受け止める姿勢を見せましょう。また,定期的なフィードバックや,部下自身が成長を実感できる具体的な取り組みを共有することで,関係の修復が進みます。
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 1on1は単なる業務報告や情報を伝える場ではなく,上司と部下が互いに信頼を深め,共に成長を目指す場です。そのためには,上司が1on1の目的を正しく理解し,適切なスキルを身につけるとともに,心理的安全性を重視した場づくりに努める必要があります。「名ばかり1on1」や「やらされ1on1」から脱却し,真に機能する1on1を実現することで,組織全体のパフォーマンスや社員のエンゲージメント向上が期待できるでしょう。
 企業の人事担当者には,上司へのトレーニングやフォロー体制の構築を通じて,この変革を支援する役割が求められます。

(月刊 人事マネジメント 2025年1月号 HR Short Message より)

HRM Magazine.

 
株式会社ドコモCSで長らくカスタマーサポート部門に従事していたが、人事部門への異動をきっかけにキャリア支援に興味を持ちキャリアコンサルタントを取得。現在は事業部門のDX推進チームで管理職として従事する傍ら、NTTドコモグループの社内キャリア相談員やキャリアセミナー講師としても活動している。2023年よりSmart相談室カウンセラーに登録。二級キャリアコンサルティング技能士。

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